民事再生における「清算価値」の基準時

1.清算価値とは?

民事再生(小規模個人再生、給与所得者等再生)における「清算価値」とはどういうものでしょうか? これは、端的に言うと、「仮に破産をした場合に換価される財産の額」ということです。すなわち、民事再生を申し立てている人が再生ではなく破産をした場合に管財人によりお金に変えられてしまう財産の総額です。もちろん、再生を選ぶのですから、再生手続きで続ける限り、実際に換価されることはありません。実際に換価するのではなく、仮に換価されたらいくらになるか、という想定の額です。

わかりやすいように、私は、依頼者の方には「持っている資産の額」と説明していますが、もう少し正確に言うと、「持っている資産のうち、仮に破産をした場合には失うことになる財産の総額」といえるでしょう。逆に言えば、手元に残せる資産の分は差し引いて計算するわけです。

2.なぜ「清算価値」が重要か?

では、なぜ民事再生において、清算価値が重要なのでしょうか? それは、小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、清算価値を下回る額の返済を内容とする再生計画案では認可されないからです。すなわち、少なくとも清算価値以上の金額を返済する内容の再生計画案にしないといけないのです。これは、債権者の利益の保護のためです。例えば、破産すれば300万円が換価されて債権者に分配されるのに再生を選んだから100万円しか返済されないのでは、債権者は不利益を受けてしまいます。そこで、仮に元の債務が500万円で「最低弁済額基準」だと100万円になる場合でも「清算価値」が300万円であれば300万円を下回る額の返済を内容とする再生計画案は認可されないわけです。

3.清算価値に含まれるもの

では、具体的にどういうものが清算価値に含まれるでしょうか? 代表的には不動産(ただし、被担保債権の額を差し引く)、預貯金、現金、自動車、保険の解約返戻金、退職金(ただし通常は8分の1で計算)、などが考えられます。ただ、あくまで破産の場合に換価されて清算対象となる額ですから、破産の場合に自由財産とされると解される額は控除されます。ここは、各裁判所により自由財産の範囲についての考え方が異なるので、同じ資産構成でも裁判所により清算価値がやや異なってくることは考えられます。いずれにせよ、破産の場合、自由財産を除くすべての財産が清算対象ですから、再生でも同様に破産の場合に自由財産となる一定範囲の財産を除いて清算価値に含まれると解されます。

4.清算価値の基準時はいつか?

では、清算価値はいつを基準にして計算するのでしょうか? つまり、民事再生を申し立ててから、開始決定を経て、認可決定に至るまで、通常、7か月程度かかります。そうすると、その間に資産が変動することは十分あり得ます。したがって、申し立ての時点を基準にするのか、開始決定時なのか、再生計画案提出時なのか、それとも認可決定時なのか、いずれの時点の資産を元に清算価値を計算するのか決めておかないと、案件により異なるとなれば不公平が生じるし、混乱が生じかねません。

この点について、一般に、認可決定時を基準とすると解されています。もっとも、再生計画案を作成して、それを書面決議に付し(小規模個人再生の場合。給与所得者等再生の場合は債権者の意見聴取)、最終的に裁判所が認可・不認可を決めるまでも2か月程度の期間があります。そうすると、再生計画案を提出する時点ではまだ認可決定までの間に資産の変動がありうるのにどのようにして清算価値を算出するのか、疑問を感じることもあるでしょう。しかし、これについては、おおよそ以下のような方法で行っています。

まず、開始決定時に裁判所からスケジュール表が送られてきます。このスケジュール表には債権認否及び報告書提出の期限、再生計画案提出の期限、認可・不認可決定予定日、等が記載されています。それゆえ、再生計画案を出す時点で認可・不認可決定予定日は明らかになっています。そこで、その予定日を想定して資産の額を計算します。もっとも、実際には認可日がずれることはよくあるのですが、基本的には当初予定日を想定して計算して問題ないと思います(裁判所または再生委員から指示がない限り)。

では、将来のある日の資産が分かるかというと、少なくとも、住宅である不動産については、計算ができます。というのは、不動産の価値自体は申立て時の査定額を使うのが一般的であり、被担保債権(住宅ローン)の額は返済により変動するものの返済の予定はあらかじめ決まっているので、それに従って計算すればよいわけです。そのために、住宅ローン債権者から償還表(いついくら返済し、返済後の残高がいくらになるか、という返済の予定を記載した表)を取り寄せる必要があります。

それ以外の資産については、退職金や保険の解約返戻金についても認可決定予定日の額が計算できるのであれば、それを用いることとなります。ただ、保険会社は将来の解約返戻金を算出してくれるとは限らず、正確な数値を得られない場合は現在の返戻金額と月々の保険料の額などを基に計算した概算になる場合が多いと思います。

預貯金については変動を予測することは難しいので、基本、申立て時の額をそのまま使うか、再生計画案提出時の額でよいとされています。

5.依頼後申立てまで時間をかけすぎないほうが良い理由

さて、清算価値は上記のようにして算出するのですが、住宅ローンの返済により不動産の価値が高まるため、あとになるほど清算価値は上がっていく可能性があります。もっとも、住宅ローンのほうが査定額よりはるかに大きく手続き中に返済が進んでも認可決定時でも被担保債権の額を差し引いた不動産の価値がマイナスなら、影響はありません。しかし、手続き中に返済していきプラスの価値が増えていく場合はそれだけ清算価値も上がってしまうことになります。

それゆえ、依頼から申立てまで時間をかけすぎると、その分、清算価値が上がって、再生計画案で求められる弁済額の下限もあがってしまうことになりかねません。例えば、もともとアンダーローン(住宅の価値よりローン残高が少ない)の場合に住宅ローンを月10万円返済している事例では申し立てが半年遅れるとその間に清算価値は60万円上がってしまい、5年分割の弁済だとしても月々の支払額は1万円増えてしまうことになります。

それゆえ、弁護士に民事再生を依頼する場合、弁護士費用の支払い及び資料収集はできるだけ早めに行い、申し立てを早くしたほうが良いでしょう他にも急いだほうが良い理由はありますが(時間をかけると申立て前に債権者から訴訟をされる恐れがある等)、清算価値が時間とともに増えていく問題もケースによっては軽視できないところです。もちろん、費用の分割支払いや資料の収集にある程度時間がかかるのはやむを得ないのですが、費用積み立てが終わったらすぐ申し立てができるように、資料の準備は依頼している弁護士ともよく打ち合わせて早めに行うことをお勧めします。

6.民事再生については弁護士にご相談を

このように、民事再生は複雑な手続きです。それゆえ、再生手続きを利用するか迷っておられる方は、まずは民事再生案件に慣れている弁護士にご相談ください。当事務所は、これまで多くの民事再生案件を扱ってきました。住宅(持ち家)のある案件、住宅(持ち家)のない案件、小規模個人再生、給与所得者等再生、など様々な案件の経験があります。個人向けの民事再生は当事務所が力を入れている分野なので、民事再生をするかどうか悩んでおられる方は、ぜひ、ご相談ください。

当事務所では、民事再生など、債務整理に関する相談は、相談だけなら無料ですので、まずはご相談ください。ご相談ご希望の方は、お電話か電子メールでご予約の上、立川の当事務所までご来訪をお願いします。

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